ボルソナーロ氏の大統領就任式にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が出席したことは、両国の関係緊密化を象徴するものである。就任式には世界46ヶ国の代表者が出席したが、ネタニヤフ氏の出席には特に大きな意味があったといえるだろう。
ボルソナーロ氏は選挙運動中、アメリカ、グァテマラに倣い、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを繰り返し強調していた。さらに、「イスラエルは主権国家として自国の首都を単独で決定すべき」との立場を示した。大使館移転は、ボルソナーロの国内の一部の支持者には歓迎されているが、この措置を実行すれば、イスラエル・パレスチナ間紛争に対して取っていた静観の立場が一転することとなる。
しかし、この措置に関しては政権内でも意見が分かれている。軍関係者は、中東のゲオポリティクにブラジルが関与することで安全上の問題が生じる可能性を危惧し、エコノミストの間では、アラブ諸国とのパートナーシップ提携の重要性、中東マーケットへのアクセスを失うことへの懸念の声が上がっている。ブラジルは、ハラルミートの最大の輸出国で、2018年1月から10月までの輸出額は93億ドルに達した中、イスラエルへの輸出国は2億6960万ドルであった。また、ブラジルは、イスラエルが強力な技術協力相手国となる可能性があるとしている。
ブラジル大使館移転の可能性はアラブ諸国の反感を買い、Union of Arab Chambersの議長は、アラブ諸国によるブラジル製品の輸出停止を示唆した。[Link] また、2018年11月、エジプト政府がアロイジオ・ヌネス外相(当時)の訪問をキャンセルし、2019年1月には、ブラジルの鶏肉加工業者30社のうち5社からの輸出を禁止した。中東諸国からのこのような報復措置の影響は、米国よりもブラジルに対しての方が大きいようである。
ネタニヤフ首相が、ボルソナーロ氏との首脳会談後に、「(ブラジル大使館の)エルサレム移転は時間の問題だ」と発言した一方、ブラジル政府はこの措置については「検討中」とした。イスラエルへの訪問中には、エルサレムに商業関連の代表事務所を設置することを発表し、イスラエルの占領地の中心地にある東エルサレムを訪れ、聖墳墓教会を訪問、「嘆きの壁」に向かって祈った(パレスチナ当局との事前調整なく、イスラエルの首相の同行を受けた)。一方で、マフムード・アッバース氏(パレスチナ自治政府大統領)の招待を断り、パレスチナ占領地は訪問していない。さらに、パレスチナのブラジル政府代表事務所の撤退にも言及したが、後に断念した。
ブラジルは、2018年11月の国連総会の投票で、イスラエル・パレスチナ紛争に関する従来からの立場から一転して米国やイスラエルに同調し、イスラエルに向けてロケット弾を繰り返し発射しているなどと非難する決議案採択に賛成した。その後の2019年3月には、イスラエルの領地拡大に関する投票を棄権し、2018年の紛争中にイスラエルが犯したとみられる暴力行為や犯罪への裁きを求める決議案、シリアのゴラン高原においてイスラエルが行ったとされる人権蹂躙行為を非難する決議案の二つに反対する票を投じた。ブラジルは、これまで国連人権理事会(2006年に発足)が提出した29の決議案に対し、イスラエルに対して反対の立場の票を投じている。